2010年頃から小説家になろうを読み始めて、これまで数百作品読んできた私が厳選した名作をジャンルおよび形式不同で紹介していきます。
レビュー
サムヒア・ノーヒア
作者：ちょろんぞ／小野崎まちジャンル：ヒューマンドラマ〔文芸〕
状態：書籍化／完結済（2018年8月現在）
URL：https://ncode.syosetu.com/n8676bo/
──彼はきっと、間違っては、いなかった
描くことに対して優れた才能を持ちながら、生きることさえも難しいほど心が弱い少女。
そんな上木田零子の幼馴染である沖澄栄一郎は、彼女とはまるで正反対な心を持っていた。
心が弱い人間は”ここではない何処か”を求める。普通の人間にとっては当たり前の居場所に行きたい。しかし、それは真に心が弱い人間にとっては身を砕く行為であった。
生きることの美しさと、どうしようもない醜さを描いている本作は読み進めていくほど息苦しさを感じさせます。それでも、最後まで読み終えたあとには、心に忘れる事の出来ないなにかを残してくれるはずです。本作はマイナビ出版ファン文庫から『サムウェア・ノットヒア ～ここではない何処かへ～』というタイトルで書籍化されています。ぜひ見かけたら手をとってみて下さい。
小野崎 まち
マイナビ出版 (2016-10-21)
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玉葱とクラリオン
作者：水月一人ジャンル：空想科学〔SF〕
状態：完結済（2018年8月現在）
URL：https://ncode.syosetu.com/n0632db/
──俺は一体、何者だ？
ゲームのようなシステムが存在している世界。気が付いたらその世界に迷い込んでいた但馬波留。その世界は彼と同じ名前を持った人物が既に勇者として名を馳せていた。自身と同姓同名の勇者は何者なのかといった疑問はあったが、彼はこの世界でひとつの妙案を思いつく。それはねずみ講──つまりは詐欺である。
リディアという国で詐欺師の”先生”として名を馳せた男は、ゲームのようなファンタジー世界で、詐欺と科学技術を用いて国を革命していく。
──というのが本作のプロローグである。
本作独特の要素として主人公の発明に関して科学的に作品の雰囲気を崩さず詳しく解説されています。また主人公がエネマグラやエロ本を作るなどちょっとエッチだったりと、詐欺要素といったコメディ調で物語は進んでいきます。しかし、それは物語のほんのプロローグでしかありません。本作を読んでいるうちにコメディの中に少しだけシリアス要素を感じることでしょう。コメディ要素とシリアス要素の比重が逆転した時、物語は真の意味で始まります。
そして少しずつ明かされていく世界の謎。主人公と同名の勇者とは何者なのか。この世界はゲームなのか現実なのか。なぜ主人公はこの世界にやってきたのか。作中に登場する多くの謎は、読者の想像を遥かに超えた真実を叩きつけてきます。
本作のSFやコメディ要素は物語を加味しているものでしかなく、肝となる要素は重厚なヒューマンドラマにあります。第八章からの怒涛の展開は小説家になろう屈指であり、後にも先にもこれ以上に度肝を抜いた作品は小説家になろうでは生まれないのではないのかと危惧するほどです。
……少しハードルを上げすぎた感もありますが、リアルタイムで読んでいた身としては本当にそう感じています。ぜひ読み始めたのならば読むのを諦めることなく最後まで見届けてほしい。
毒舌少女のために帰宅部辞めました
作者：水埜 アテルイジャンル：現実世界〔恋愛〕
状態：書籍化／完結済（2018年8月現在）
URL：https://ncode.syosetu.com/n6599ds/
──愛は理論を超越する
自称「地球の平和を守る」帰宅部の榊木彗は、美女教師から一つの依頼を与えられた。
曰く、日羽アリナの毒舌を治して欲しい。
「美しい花には棘がある」ということわざの如く、日羽アリナは美少女でありながらも中身は悪魔のようであり、そんな薔薇のような少女は毒舌薔薇と呼ばれるようになっていた。
主人公である榊木彗は美女教師からの依頼を受けて、日羽アリナと関わりを持つようになり、彼女の更生のために、色々な人達とコミュニケーションを図ってもらうために学校中の部活動に強力していく。毒舌な彼女と会うたびに榊木彗は罵倒をされるも、いつもジョークばかりで適当で馬鹿な榊木彗の心が傷つくことはなかった。そうした交流のなかで彼女の心は少しずつ花開いていく。
そして榊木彗は、彼女の毒舌には大きな秘密が存在していることを知るのだった。
日羽アリナの毒舌と聞いて「ツンデレ？」と思った方、安心して下さい。デレはほぼありません。
それでもヒロインには可愛らしさを感じることができるでしょう。主人公である榊木彗の虚言と行動力、そしてトマトドラッカーっぷりには呆れるほどに笑ってしまい、読み進めていくほどにただの馬鹿から愛おしさも感じられる馬鹿となっていきます。
ラブコメとして一級品の作品です。読み進めていくほど榊木彗のジョークと日羽アリナの毒舌はクセになり、そして甘く切なくなっていくことでしょう。
本作は角川スニーカー文庫から書籍化予定となっています。読み終えて書籍を購入する予定の方は続報にご期待下さい。
リビルドワールド
作者：非公開ジャンル：アクション〔文芸〕
状態：連載中（2018年8月現在）
URL：https://ncode.syosetu.com/n9736dt/
──意志を示し、やる気を出し、覚悟を決めろ
現代の科学文明は発展したが滅び、そして世界は再構築《リビルド》された。
科学文明が残された旧世界の遺跡で、文明の遺物を探すことを生業にするハンターとなったアキラは、肉体を持たず認識できる人間も限られたアルファと名乗る美女と出会う。
本作には魔法的な超常現象は存在せず、作中に登場するモンスターの多くが自律兵器である。肉体を再生させるのも、魔法ではなくナノマシンを使用していたり、主人公達が使用する兵器の多くが鈍器や銃であり、読んでいると火薬やガソリンの匂いを錯覚させるほどにサイバーパンクをしている。
主人公であるアキラも読んでいて気持ちの良い性格をしており、アルファによるサポートで自らが強くなったと錯覚することなく、自身も強くなるために努力し成長しているところが素晴らしい。
メインヒロインであるアルファも数多のなろう作品のメインヒロインとは違って裏では暗躍しており、アキラはアルファの真の目的をもしも知ってしまったら協力関係を断ち切ってでも敵対する可能性が生まれてしまうために知ろうとしていせん。それによるアキラとアルファの信頼できるが信用できない関係性は歪ながらも魅力的に描かれています。
本作の戦闘描写の表現力も素晴らしく、ファンタジーは好きだけどSFやサイバーパンク作品は苦手だという人にもおすすめできる一作です。
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
作者：理不尽な孫の手ジャンル：ハイファンタジー〔ファンタジー〕
状態：書籍化／コミカライズ化／完結済（2018年8月現在）
URL：https://ncode.syosetu.com/n9669bk/
──生きていくのだ。いつ死んでも後悔しないように。本気で
両親の葬儀に出ることもなく引きこもり続けた無職で最低な人生を送ってきた男は、それでも後悔して死ぬのだけは嫌だった。男は満足感を得て死ぬために最期に誰かを助けようとするも、男は事故で死んでしまう。
しかし目覚めると、異世界に転生していた。生まれ変わった事で今生こそは後悔することのない人生を送るために、彼は本気で生きていく事を誓う。
小説家になろう全体累計ランキング第一位。小説家になろうといえばこの作品であろう。
本作は所謂テンプレ異世界転生モノであるが、本作は量産されているテンプレ異世界転生モノとは一線を画する。
主人公には前世で多くのトラウマが存在しており、それらは肉体的に強くなろうとも簡単に乗り越えることはできない。家族や両親の関係も一つのトラウマとなっており、主人公は前世では知ろうとしなかった家族の暖かさを知ろうとする。しかし両親に愛されて育った主人公のルーデウスにとって家族とは前世であり、どうあっても両親を両親として愛することが出来ないでいた。しかし、ある出来事をキッカケに、家族として、そして両親の息子として心身ともに成長していく。
その他にも本作には「過去（前世のトラウマ）を乗り越え受け入れる」というのが作品のテーマとなっており、幾つものエピソードにその辺りのメッセージ性を感じる事ができる。
また本作の最大の特徴は魅力的な登場人物達であろう。親愛なる神であらせられるロキシー神、ボーイッシュな少女シルフィ、狂犬の如く暴力をふるうエリス、フィギュアを愛するザノバ、憎めない悪友クリフ等々……敵でさえも愛おしく感じられるほどに魅力に満ちています。
また常に物語が大きく変化しているため、同じような展開が続いて退屈になることはないでしょう。物語どころか世界さえも大きく動かす「ターニングポイント」では、これから何が起きるのかと読者の心を高鳴らせることでしょう。小説家になろうといえばこの作品をあげる人が多い傑作。無職というタイトルで引いてしまったり、まだ読んだことがない人はこれを期にどうぞ読んでみて下さい。
MFブックスにて書籍化されており2018年8月現在で19巻（web版第20章）まで刊行されています。コミカライズ化もされており、ロキシーの外伝コミックも刊行されています。まずはコミックから手を出すのも良いかもしれません。
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