【感想】水葬銀貨のイストリア


『水葬銀貨のイストリア』のウグイスカグラの前作『紙の上の魔法使い』の個別ルートは、ほぼバッドエンドであり、トゥルーエンドも完全無欠のハッピーエンドとは程遠い結末でした。ただし名作SF映画『バタフライ・エフェクト』はディレクターズカット版が一番好きなエンディングだと思っているビターエンド大好き人間の私としては、『紙の上の魔法使い』は私の感性に合った良作でした。といってもプレイヤーの心を抉りとる鬱展開が終始続くため、良作ではあるが他者に薦めるには些か遠慮してしまう作品でした。
同ブランドの『紙の上の魔法使い』の感想はこちらから。

さて、そんな作品の後に発売された『水葬銀貨のイストリア』のキャッチコピーは「──ハッピーエンドを、約束しよう」と呼ばれるものでした。しかし、その内容は「は? これバッドエンドしか見えないんだけど?」と呼べるほどの前作を超える心を抉る鬱展開が続き、プレイしている間、主人公にとってのハッピーエンドで、ヒロインにとってはバッドエンドになる未来しか見えません。作品が気になる方は体験版をプレイしてみてはどうでしょうか。三章にてトリックが明かされた時、あなたの心は絶望に染まるでしょう。

しかし私が保証します。
この物語の結末は──ハッピーエンドであると。そこに至るまでに多くの犠牲や、主人公や周りの人々の弱さに打ちひしがれ、悲しい選択をしてしまうかも知れませんが、その先にある結末は誰もが笑顔を浮かべる未来だと。

これは理不尽に抗いながらも、それでも挫折して、自らが信じる幸せへと進む彼と彼女達の成長の物語。

シナリオ   :40/50点
キャラクター :8/10点
グラフィック :8/10点
音楽     :7/10点
声優     :8/10点
システム   :5/10点
合計     :76点(評価C)

ここからは『水葬銀貨のイストリア』の重大なネタバレが含まれています。未プレイでの閲覧は自己責任でお願いします。



感想

まず『紙の上の魔法使い』でも触れたが今作も誤字脱字が多い。キャラクターの名前が完全に違ってたり、ヒロインが言うはずのセリフを主人公が喋っている、ボイスが再生されないのはどうにかしてほしい。ボイスと文章の二人称(あなた・おまえ)の間違いだけで二桁を超えているのは流石にありえないです。『紙の上の魔法使い』も誤字だらけでしたが『水葬銀貨のイストリア』はもっと酷い誤字祭りでした。ちゃんとデバッグして下さい。

またシステム面でも批判要素が多く、時々キャラクターの立ち絵が二人に分身します。これは許容範囲ですが、流石に玖々里ルートでバックログが完全に機能しなくなるのは最悪でした。『紙の上の魔法使い』でもありましたが、オートを中断できるのが次のセリフ以降で、それまで操作不能というのはストレス溜まりました。コンフィグも酷くマスター音量を操作したら全ての音量が均一になったり、Hシーン回想時に低確率でウィンドウ不透明度が100%になる等、システム関連でストレスが溜まらないという事はないほどバグが多いです。しかも修正パッチ適用しててこのバグの多さは何を修正したのかが気になるレベルです。お願いですからデバッグして下さい。

今作は鳥籠事件に関わる回想シーンが多く存在している。盛り上がろうとしている瞬間に回想が差し込まれる事が多く、せっかく盛り上がったのに興醒めしてしまう事があった。
スタッフロールに関しては『紙の上の魔法使い』と同様に今作にもありません。今作からオープニングが追加されたのだから、オープニングのフルをBGMにしてスタッフロール作るくらいしてほしかった。余韻ゼロです。


さてここまで批判してきましたが、シナリオとキャラクター性──特に声優さんの熱量は正直近年の中では良かったです。煤ヶ谷小夜の鳥籠事件による監禁から開放されてからのPTSDのシーンとバッドエンドのシーンは特に素晴らしく、聴いているこちらの心が沈むほどでした。フォロワーに教えられましたが『紙の上の魔法使い』の月社妃と同じ声優(御苑生メイ)さんらしいですね。月社妃と同じ声優だとは思えないほどの切り替わりっぷりで驚きました。


キャラクターといえば主人公・茅ヶ崎英士の父親・茅ヶ崎征士のクズっぷりは最高でした。彼の死に様はどのルートでも見所であろう。
また彼が提示した二つの選択肢の前に多くのプレイヤーは嘆き、苦しみ、決断したことでしょう。私自身もその一人であり、五分間ベッドの上で毛布を被って唸り声を上げ、落ち着いてから椅子に座って選択しました。
茅ヶ崎征士以外の八椚紅葉と久末紫子も悪役として魅力的であった。紫子に関していえば主人公の義父を殺した事実があり、主人公の人生を狂わせていながら主人公と同様にプレイヤーに同情を誘った。『紙の上の魔法使い』では同情しうる過去を持った悪役が登場し、物語の登場人物達はその悪役を赦したが、多くのプレイヤーにとっては許しがたく同情し得ない事をした。この主人公とプレイヤーの感情の差異というのは評価に大きく関わりました。

基本的に私は作品を終えた後に色々と気持ちを整理しながら執筆しているのだが、『水葬銀貨のイストリア』は中々言語化しにくい作品であった。ということで数日考えて、ようやく答えが出た。『水葬銀貨のイストリア』はポーカーの駆け引きや、騙し騙され、罪の重さ、選択する意志、そういった重苦しい物語を楽しむ大衆文学作品だ。

たった一人を救い、たった一人を犠牲にする。
どちらを選択するのか。その意志の在処は、紛れもなくプレイヤーに委ねられている。この選択するという体験は、決して小説という媒体では味わうことは出来ない。まさしくアドベンチャーゲームならではであろう。

水葬銀貨のイストリア
水葬銀貨のイストリア
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ウグイスカグラ (2017-03-24)

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